ダルビッシュに直接聞いた“尊敬される人間になるには…?”
佐々木朗希・山本由伸は“先輩の器”をこう見ていた「同じ目線で話してくれる」
WBC期間中、侍ジャパンの若い投手たちは常に「思考」していた。
自分たちの取り組みを尊重してくれる人物がいたから考えるようになった、とも言えるだろう。
「ダルビッシュ(有)さんは年下の選手にも同じ目線で話してくれています。
そこで僕の意見を言ってまたそれに対する意見をもらったりするので、自分がいつもどういうふうに考えていたのかが分かりました」
“令和の怪物”として昨季は完全試合を達成し、WBCの準決勝戦でも好投を見せた佐々木朗希(ロッテ)のコメントである。
日本人は年上に自分の意見を言うことに慣れていない。
意見を聞かれ発言をすることがあっても、その内容を質され、修正を余儀なくされることも少なくない。
「お前がその取り組みをやめない限り、試合で使わないからな」。
そうしたやり取りを小・中、そして高校年代までの間に経験し、やがて自分の意見を封じ込める。
SNSで意見を発信することができるようになった現代においても、ことアスリートに限っては、
何か意見を言おうものなら「そんなことをしている時間があったら、練習しろ」と罵声を浴びせられる。
その結果、アスリートの大半が黙るしかなくなる。
しかしそのような空気は、WBC直前に行われた宮崎キャンプでは全くなかった。
若い選手たちがのびのび意見を言えるような環境が備わっていたからだった。
この雰囲気を作った人物こそ、メジャーリーガーで唯一合宿から参加していたダルビッシュだった。
ダルビッシュは合宿当初から自分が合宿からいることの意味をこう話していた。
「ずっと日本にいるとなかなか最新の情報が得られないこともあるので、
そういうのをしっかり情報共有してお互い成長していけたらなっていうふうに思っています。
勝ち負け以外の部分では、そういうこともできればと」
ただ、ダルビッシュは「アメリカはこうだ」という物言いはしなかった。
とはいえ「気になることは聞きにこい」という態度でもない。あくまで自分から若い選手たちに話しかけ、耳を傾けた。
合宿に参加する前にYouTubeなどで全選手のプレーぶりを動画でチェックした上で、各選手たちに考え方を聞いて回ったのだった。
上から目線ではない、憧れのプレイヤーが自分の考えに耳を傾けてくれている。だからこそ、若手選手たちも真剣に返答をする――。
決勝戦で快投を見せた高橋宏斗(中日)はこう語っている。
「適当なことを言えないですからね。自分自身でやってきたことをしっかりと言葉にすることでもう一回、
自分自身に言い聞かせるじゃないけど、確認することには繋がりました。
(ダルビッシュさんとの)そうしたやり取りでいい時間を過ごせたと思います」
伝えること、自分の意見を発信することはつまり、その人自身に「芯」や「軸」を作る行為と言うこともできる。
人に対して、あるいは世間に対して発信することで責任や覚悟が生まれる。
もちろん、自分の意見を言いたがらない選手、あるいはメディアを避ける選手もいる。
一方で、率先してメディアの前に立ち、自身の意見を発信することで、より芯を強くしていく選手たちが存在していることもまた事実なのだ。
とりわけ、メジャーリーグのスーパースターたちはその行為を怠らない。
むしろスーパースターこそ、自身の考えを口にする傾向にある。
日本においてダルビッシュほど発信力があるアスリートは多くない。
Twitterを中心にしたSNSのほか、近年は音声アプリの「stand.fm」でもライブ配信を行うなど、積極的に自身の考えを世の中に届けている。
ダルビッシュにとっても、「発信」を通じてアスリートとしてあるべき自らの軸を作り上げてきたのではないだろうか。
本人にその質問を投げかけてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「自分の意見というのは全てが正しいわけではないのですが、自分の意見を出すことによって、
例えば今の日本の価値観であったり、アメリカでの価値観であったり、
文化(の違い)とかはすごくわかるので、世界が見えやすくなったし、アジャストしやすくなった。
そうしてきたことが自分の人間的な部分を大きくしてきたというのはあります」
周囲からリスペクトされる人間になるためにはどうあるべきなのか。再びダルビッシュの弁。
「自分が特別だと思わないことじゃないですか。ファンの方々も僕らも基本的には同じ(人)なので。
確かに自分たちは写真撮影とか、サイン下さいとか色々言ってもらえますけど、
その価値というのは勝手に周りがつくってくださっているもので、本来の価値というのは生まれたときから変わらない。
そこに惑わされないで、自分の言動に関しては気を付けるということ」
思考すること。そして外に発信すること。
ダルビッシュとのやりとりは、若手選手たちにとって自身の思考を呼び覚ますきっかけとなったに違いない。
この効果は目に見えずとも、ダルビッシュがチームに起こしたムーブメントの一つと言えるかもしれない。
それが若い選手に見られた言葉の変化にあったように思う。
準決勝で好投を見せた山本由伸(オリックス)は言う。
「感覚を言葉にするのは難しいですけど、いつもより脳みそは使っているかなと思います。
ダルビッシュさんは知識がたくさんあるので、(僕が話す言葉を)受け止めてくださっているというのはあるのかなと思いますけど。
ダルビッシュさんが言っていることは確かにそうだなってすごい共感できる話があって。
本当にダルビッシュさんの人間性とかも大好きですから、素直に聞き入れられる話ばかりでした。
6年契約を結ばれたというのを聞いて、メジャーのチームから信頼される人ってこういう人なんだなと思いました」
スーパースターと過ごした1カ月余りの日々は、代表選手たちにとってかけがえのない時間だった。
大会後半になるにつれて、自分の考えを口にする選手たちが増えていったことが他ならぬ証拠である。
Number Web 氏原英明 によるストーリー より