極端に低い便器を使っているとか、カマキリみたいな長い足をもっていないかぎり、人は普通、トイレで大をするときにちゃんとしゃがみ込んではいないらしい。
ところがオハイオ州立大学ウェックスナー・メディカル・センターの研究チームによれば、しゃがんだ状態こそ、人間の自然な排便姿勢であるという。
消化器病学を専門とするピーター・スタニク医師らは、踏み台を使った便通改善の実験を行った。
踏み台を使う理由は単純明快、踏み台に足を載せると、腰の位置はそのままで膝が上がり、しゃがんだ姿勢に近くなるからだ。
しゃがむと直腸がまっすぐになり、滞留していた便が肛門に落ちやすくなる。
消化器病学の学会誌で発表した論文のなかで、研究チームは踏み台のことを〈排便姿勢矯正具(DPMD)〉と呼んでいる。
戸棚の上にあるものを取りたいときは、これからは「DPMDを持ってきて」と頼んでみてもいいかもしれない。
実験は52人の被験者を使って行われた。被験者の平均年齢は29歳で、女性比率は40.1パーセント。
28.8パーセントの被験者が排便後に「残便感」があり、44.2パーセントが強くいきまなければ排便できず、
55.8パーセントが過去一年のあいだに、拭いたあとのトイレットペーパーに血がついていたことがあった。
実験では、最初に2週間、踏み台、もとい、DPMDを使わずに用を足してもらう。その後の2週間はDPMDを使ってもらった。
あわせて4週間の実験期間中、被験者全体で計1119回の排便があり、そのうち735回はDPMD不使用、残りの384回は使用された。
DPMDを使うと、快便感をおぼえた回数は不使用のときの3.64倍になり、いきむ回数は77パーセント減少した。
その一方、DPMDを使用しない排便にかかった時間は、使用した場合と比べて平均で25パーセント長かった。
つまり、トイレにこもる時間が長いのは、スマホでメールを打ったり面白い記事を読んだりするからではないのだ。
これほど単純な方法で便通が改善するのなら、便秘に苦しむ人々には朗報といえるだろう。
もちろん、必ずDPMDで使わなければならないわけではない。
しゃがんだ姿勢になるように上げた足を置いておくものがあればいいのだから、たとえば古雑誌の束でも構わない。
ただしヨガをやるわけではないから、足を上げるときに体のバランスを崩さない工夫はしたほうがいい。
便秘のことは、人前では話しづらい。恥ずかしいし、場にふさわしい話題ではないように思えてしまう。
だから、果たしてどれぐらいの人が人知れず苦しんでいるのか把握するのは容易ではない。
慢性的な便秘に悩まされている人の数は、研究によって全人口の2パーセントから27パーセントまでと差があり、
その違いは「慢性的」をどう解釈するかにかかっている。
とはいえ、人間の基本的な生理機能についておおっぴらに話し合えなければ、様々な面で害が生じることにもなるだろう。
体にとって、便秘は決して些細な問題ではない。不快な残便感があるし、腹痛の原因にもなる。
トイレに入ると、「さあ来い、おまえならできる!」とか「もうちょっと、あともうちょっとだから!」などと、思わず独り言をつぶやくようになる。
宇宙に飛び出さんばかりにいきんで切れ痔になったり、便器から転げ落ちたりすることだってある。
排便とは体内のゴミを排出することなのだから、それがうまくいかなければゴミが体に溜まることになる。
適切な排便ができないと、便秘以外にも様々な健康上の問題が生じる。
たとえば倦怠感をもたらすこともある。便秘が長びくと便が凝縮して石のようにかちんかちんの宿便になる。
それが大きくなると、いわゆる「糞詰まり」という危険な状態になる。
便秘薬という手もあるが、これは長い目で見ればあまり好ましくない。
腸の動きを乱し、腸そのものを痛めてしまう副作用があり、脱水症状を引き起こすこともあるからだ。
ほかの薬との相互作用で依存性が生じることもある。
食物繊維を多く含む食品を食べたり、水分の摂取量を増やしたりすると便がゆるくなることもある。
運動で腸の動きを活発にすることも有効な解決法だ。しかし、どちらも常に効くわけではない。
というわけで、DPMD、もしくは踏み台を使うだけでいいこのやり方は、正しい便秘解消法への最初の一歩なのかもしれない。
Forbes japan ライフスタイル より