隣のレジは早い (No.277)


pic277


思い通りにならないこと


 今回は東京都八王子市にある浄土真宗本願寺派、延立寺の掲示板です。 非常にシンプルな言葉ですが、この言葉に共感する方は多いのではないでしょうか? 私もスーパーのレジで並びながら、隣のレジのほうが早く進んでいるのを見て損をした気持ちになることが何度もありました。

隣のレジは早い。これは思い通りにはいかない人生を表した言葉であるともいえるでしょう。仏教における「苦」はサンスクリット語の「ドゥッカ」という言葉が元になっており、 この原語には「思い通りにならない」というような意味合いが強く含まれています。

隣のレジで並んでいた人たちが支払いを終え、買い物を済ませているのに、あなたはまだレジの列に並んでいる。そのときにあなたはどのような気持ちになりますか? 大半の人は損をしたようなマイナスな気持ちに陥ったり、イライラしたりすると思うのですが、もし隣にもう1つのレジが存在しなければ、きっと何も思わずに順番を待ち、普通に買い物を済ませたことでしょう。

以前、「他人と比べると不幸が始まる」という言葉が、あるお寺の掲示板に出ていたのを見かけたことがあります。これは俳優の故・藤村俊二さんの言葉だそうです。結局、他者(隣のレジ)と比較することを通して苦しみが発生するのです。

『法句経』には以下のような言葉があります。

他人の過失を見るなかれ。他人のしたこととしなかったことを見るな。ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ。
 法句経50 中村元訳 『ブッダの真理のことば 感興のことば』 岩波文庫


ここでは、自分のしたこととしなかったことだけに集中することの重要性が説かれています。これは要するに隣のレジを全く気にしない姿勢であると言えるでしょう。

今年はラグビーのワールドカップが大きな盛り上がりを見せましたが、ラグビー日本代表のキャプテンも務めたことがある廣瀬俊朗さんが、先日「目標と目的の違いは……」という記事の中で、このようにおっしゃっていました。

『目標』っていうのは、例えば『日本一になる』とか『試合に出る』とか、皆さん、あると思います。それは最後、天候だったり、監督が決めることだったり…。 自分自身では決められない。でも、『目的』っていうのは違う。『なぜ自分はラグビーをしているのか』ということ。

周囲の子どもたち、クラブハウスを毎日、キレイにしてくれていている方々…。 そういった方々に『自分の姿勢』を見てもらうこと。ラガーマンなんて選手寿命はそう長くない。 皆さん、いずれは引退する。その時に『何を残せたのか?』というのが『目的』だと思います。

(中略)もちろん皆さん、『試合に出たい』と思うでしょ。 ラグビーに限らず、どんなスポーツでもセレクションは起こる。 でも、試合には出られなくても『自分自身は成長している』、『誰かに影響を与えている』…っていうことを考えた方が、健康的。もしくは将来、自分が成し遂げたいことにつながる。 そこが大事なポイントかな…って思います。


まさに廣瀬さんがここで言う「目的」が「自分のしたこととしなかったこと」と言えるのではないでしょうか? 他者(隣のレジ)を気にしすぎず、自分の振る舞いや「目的」に意識を集中させたいものです。



             浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭 より










home



inserted by FC2 system