新たながんの治療法として注目されている「光免疫療法」。
手術、化学療法、放射線療法、免疫療法に続く「第5の治療法」ともいわれています。
がん細胞だけをピンポイントに攻撃できるうえ、がんに対する免疫を高める作用もあるのが特徴です。
光免疫療法の仕組みや、実際の治療の流れなどについて、関西医科大学光免疫医学研究所 所長 小林久隆先生と、同大学附属病院光免疫療法センター 講師 藤澤琢郎先生に伺いました。
光免疫療法とは、がん細胞のみに付着する薬剤を投与した後に光(近赤外線)を照射することで、薬剤が光に反応してがん細胞だけを破壊する治療法です。
2020年9月に世界で初めて日本で承認され、2021年1月に保険適用となりました。
光免疫療法で使用する薬剤は、がん細胞の表面に付着するタンパク質に、光に反応する色素を付けたものです。点滴で投与すると、
薬剤が徐々にがん細胞に集まっていき、約1日で、がん細胞に薬剤が十分に付着した状態になります。
薬剤が付着したところに光を当てると、色素が反応してがん細胞を破壊します。薬剤自体はがん細胞にダメージを与えず、
光も人体には無害です。両方が反応することで、がん細胞を壊すことができます。
これまで、がんの治療法としては、手術、化学療法(抗がん剤投与)、放射線療法、免疫療法(がん細胞を直接壊すのではなく、
免疫を活性化させることでがんを攻撃する方法)が行われてきました。
光免疫療法は、これらの治療法に続く「第5の治療法」と呼ばれ、今までの治療法のデメリットを解消する特徴を持っています。
従来の治療法によるデメリットは、次の通りです。
・ 化学療法や放射線療法は、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまいます。
本来はがんを攻撃する役割を持っている免疫細胞も、これらの治療によってダメージを受けるため、免疫機能が落ちてしまうことがあります。
・ 手術は、がんが転移している可能性がある場合、免疫を担う器官であるリンパ節を切除することがあり、免疫機能の低下につながってしまいます。
光免疫療法は、がん細胞だけをピンポイントで壊すため、免疫細胞を含めた正常な細胞を傷つけません。
さらに、光免疫療法によってがん細胞が破壊されると、壊れたがん細胞の中から、がんに特有の物質(がん抗原)が周囲にばらまかれます。
この物質を周囲の免疫細胞が認識し、同じがん細胞に対する免疫が活性化されます。
「この仕組みなら、光を当てた後にがん細胞が残ってしまったとしても、患者さんの体に元々備わっている免疫機能で、がん細胞をさらに攻撃することができます。
光免疫療法は、がんを直接壊すことと、免疫を活性化することの2つを、一度の治療で両立できる治療法なのです」(小林先生)。
光免疫療法だけで全てのがんを治せるわけではなく、現段階では治療の対象になるがんも限られていますが、がん治療法の新たな選択肢として期待が高まっています。
大きなポイントは3つありました。
まずは適応に関する進捗です。
ご存知の通り、現状は頭頸部がんで手術不可または、再発の患者のみに保険適用で提供されています。
これが今夏より遂に子宮がんを皮切りに内臓部分での治験が開始されます。
これには治療法の技術革新があったからだそうです。
これが二つ目の大きな進捗で、光免疫療法の効果が分かるカメラ『ルミナスクラスターエヌアイ』の完成です。
このカメラがあることで、リアルタイムで近赤外線(がんを破壊する際に照射する人体には無害の光)を当て、がん細胞の回りで薬が反応する様子を確認しながらの治療が可能になりました。
がん細胞にくっつく薬は、近赤外線を当てると反応し光を放つのが光免疫治療の原理ですが、その光を映像で確認し、細かいがんの部分を把握できるようになったそうです。
これにより目視できない体内深部の治療も可能になったわけです。
これまでは、長年の勘や、推測などで患部を探っていたわけですから、画期的な進歩です。
最終的には、このシステムを使い、カメラががんの場所を判断し、医者がボタンを押すだけというような治療法がベストであると語られていました。
そして三つめが、がん再発のリスクを減らす新技術が発表されました。
これによりがんの完治の可能性が飛躍的に高まる事になります。
原理は、光免疫療法においてがん細胞と共に「制御性T細胞」も破壊してしまうというもの。
そもそも人間には、がんと闘うT細胞という免疫細胞が大きく分けて3つ存在します。
・異物を見つけて攻撃の指示を出す「ヘルパーT細胞」
・指示を受けて実際にがんを攻撃する「キラーT細胞」
・キラーT細胞が暴走しないように抑える「制御性T細胞」
これらの働きで、通常、がん細胞はあっても免疫細胞が攻撃することでがんにはならないようになっているわけですが、免疫細胞が働きすぎると自分の体を攻撃してしまい、
皮膚の例でいうとアトピーのように炎症を起こしてしまうということが起きる。
また、逆にそれを防ぐべき制御性T細胞が働きすぎてしまうと、攻撃しなくてはいけないがん細胞が守られてしまい、がんが増殖することもあります。
制御性T細胞にくっつく抗体を使った薬剤を投与することで、がんを破壊するのと同様に、光を照射した患部のがんと共に制御性T細胞をも破壊できるという原理。
これにより、免疫細胞が、破壊されたがん細胞をきっちりと攻撃し、完治させることができるわけです。
たとえ同じがんが再発してもがんの特徴を覚えている免疫細胞が体に残っており、抑え込んでくれます。
この方法だと、がん周辺の制御性T細胞だけを破壊することができるため、全身の免疫機能を下げなくて済むという利点もり、
抗癌剤の様な副作用もほとんど無くなり、治療の苦痛からも解放されます。
実際、マウスの実験ですと、がんを壊すだけだと、完治できるのは10〜20%程度。ところが制御性T細胞とがん細胞を同時に壊してやると、
1回の治療でマウスが完全に治ってしまう率というのは60〜70%まで高まったとその効果を強調されていました。
前述の通り、現在、保険適用されるのは頭頸部がんのみですが、他のがんへの治療も想定されており、人々の治療に用いられる時期について、
順調にいけば治験を経て「3年から4年で薬になる」と予測されていました。
いよいよ癌治療が日帰り治療になる日が近づいてきました。
現在の光免疫療法は、手術が適さない進行もしくは再発した頭頸部がんに適用されています。また、化学放射線療法等の標準治療が優先されます。
国内で光免疫治療を謳うクリニックが急増していますが、ここで説明した正式な治療法と薬剤が提供できる病院は下記に限られています。
▼正規の治療が受けられる施設
https://pts.rakuten-med.jp/akalux/institution/?enter=true
小林久隆先生 プロフィール
米国立がん研究所(NCI)主任研究員
1961年、兵庫県西宮市生まれ。1987年京都大学医学部卒。1995年同大学院修了し医学博士修得。1995年よりNIH臨床センターフェロー。
2001年よりNCI/NIHシニアフェロー。2004年よりNCI分子イメージングプログラムで主任研究員として、基礎研究開発部門を主導。専門は、がんの新しい画像診断方法とがん細胞の超特異的治療(近赤外光線免疫療法)の開発。
近赤外光線免疫療法の開発は、2012年にオバマ大統領の一般教書演説で紹介され、2014年にNIH長官賞を受賞した。
近赤外光線免疫療法は、アスピリアン・セラピューティクスにライセンスされ、2015年より頭頸部がん患者を対象にした最初の臨床治験が開始された。
これらの開発で4回のNIH Tech Transfer Awardを受賞しており、NCIでは今世紀に入って初めての日本人テニュア主任研究員となった。
日本では第38回日本核医学賞等を受賞する研究者であったと同時に、11年の臨床経験がある放射線診断、核医学、消化器内視鏡の専門医でもある。
これらの日米での功績によって2012年に、日本政府の国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の表彰を受けている。
現在、アメリカ化学会の雑誌など欧米の7誌で編集委員、多くの国際学会でプログラム委員をしている。
先進医療.netより